臨時ニュース「なな帰る」

それは、三月五日のことでした。
朝、いつものようにお薬を飲ませ、朝ごはんを食べたあとに、
お散歩に出たななは、その日、それっきり帰ってこなかったのでした。
今までになかったことです。
いくら遅くまで散歩に行っても、夜の七時過ぎには帰ってきてたこです。
それがいくら待っても帰ってこないのです。
そのうえその夜から寒さがぶり返し、雪まで降ってきたのでした。
家族でかわりばんこに外に探しにいったり、風除室を何度ものぞいたりしたのでした。
その夜、ネットで迷い猫の検索をして、例の和歌、
 
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰りこむ

を紙に書いて玄関に貼っておきました。
これは家を出た猫が帰ってくるおまじないとして有名なんだそうです。
半信半疑でしたが、藁にもすがる思いでした。
翌朝は雪が積もっていてとても冷え込んでいましたが、ななの気配はありません。
トラが朝ごはんを食べにきたので、「ななを見つけたら、連れてきてちょうだい」と
頼み、いつもより多めの朝ごはんにしてあげました。
家人が仕事の合間に家をのぞいてみても、ななの気配がないのだそうです。
ご近所の入っていそうな小屋とかに頼んで探し歩いても、全然みつかりません。
娘は、「ねこをさがしています」のチラシを作り、近所に配りながらお願いして歩きました。
私は、新聞社、保険所、警察に電話をして、なならしき猫の情報がないかを聞きました。
それでもまったくと言っていいほど手がかりはありません。
正直、私は諦めていました。
連夜の寒さ、吹雪といっていほどの雪にどこかでどうなっているんじゃないかと、
否定しながらも覚悟を決めていましていました。
でも、娘は諦めませんでした。
仕事から帰ってくると、まだ明るさの残るうちに、ななの名前を呼びながら
近所を探し回っていたところ、今日、反応があったのです。
家から100メートル近く離れている、路地の奥の家の方から猫の鳴き声がしたそうです。
娘は必死でその場所をスマホで検索して探し当て家人に来てもらい、
そこの家の人に頼んで入れてもらい、無事、保護することができたそうです。
ななが入り込んでいた家は、ネコ嫌いのおばあさんが一人で住んでいるそうです。
その家の二階に上がり込んで、二日二晩、鳴き通しで、おばあさんはほとほと困って
いたとのこと。
なならしき声を聞いたと娘からメールがあったとき、私はまだ仕事中でしたが、
早退をすることにして、職場を出たらいい具合にタクシーが通りかかったので飛び乗って
帰ってきました。そして、家に着いたときにちょうど家人がななを保護してキャリーに入れて
帰ってきたところでした。

家に入ってからのななです。
ただ鳴いてばかり。
今日から、完全室内飼いにすることに決めました。
だから、いくら鳴いても外には出しません。

二日二晩、ほとんど飲まず食わずだったのではないでしょうか。
少しずつ、がつがつと食べ始めました。
そして歩きまわります。

この耳は怒っています。


スカートを掛けてある衣紋かけの上でうとうと。
で、しばらくするとまた鳴いて食べて、お水を飲んで。
延々とその繰り返しです。
でも、よかった。見つかって本当によかった。
娘の諦めないこころ。見直しました。
朝世さん、お祈りありがとう。
おかげさまで帰ってきました!
本当にほんとうにありがとう!