「杜人」2010冬号

今日は、というか、今日も、というか、
とっても寒かったです。
連日、最低気温を更新中。
今日の職場、暖房が入っているにも関わらず、あまりの寒さに
予備用に置いてある石油ファンヒーターをつけたところ、
室内温度が9℃という表示が出たのには、ビックリ!
これって大寒の寒さですよねって、職場の人と語らいながら、
まだまだ続くだろう寒さに、どんどん落ち込んでしまいそう。
でも、そんな寒さを忘れさせてくれるニュースがあります。
あの、「タイガーマスクの輪」です。
最初のたったひとりの善意の人から、みるみる全国に広がって
いって、ニュースに取り上げられるのを見て、思わず涙ぐんで
しまったこともありました。
自分のことで精いっぱいの今の世の中に、施設に入っている子たちの
状況を慮り、差しのべられた手の暖かさに、素直に感動しました。
インターネットでそんなニュースを追っているうちに、
子供手当が施設の子供に配られていないことを知りました。
子供は、みんな平等なはずではなかったの?
自分の無知がひどく恥かしかったです。
だから、この「タイガーマスクの輪」が、広がっていくことを心から
喜んでいます。「伊達直人」「矢吹丈」「肝っ玉かあさん」、、、。
匿名のむこうに、シャイな笑顔が見えるようです。
たとえ一過性の現象でもいいと思います。民衆の力というか、
日本人の民族性というか、そういったものが結集して、
この閉塞感を打ち破る、突破口のひとつになるのではないかと
思ってしまうこのごろです。


「杜人」2010冬号が去年の暮れに届いていました。
通巻228号です。その巻頭のページに驚きました。
大友逸星さんが胃がんを患っていらっしゃると、
ご本人が書かれているのです。
余命は不明だと。
抗がん剤の治療のあと、現在は自宅療養中で、
体重は十キロも減少とあります。
そんな状況でありながら、ご自分の川柳の蔵書の散逸を
危惧されて、「川柳杜人社文庫」の設立を構想中だというのです。
ここまで川柳のことを考えて、キリキリと眼を引絞って
生きていらっしゃる大先輩の熱さに、胸がいっぱいになりました。
そして、もうひとり、川柳を大事にして支えにご病気と闘って
いらっしゃる、久保田紺さんの文章が掲載されていて、
その清明な書きように、打ちのめされるような思いで読みました。
久保田紺さんの句は、他のひとのブログで何度か目にして、
お名前は存知あげておりました。
というより、その句は、読むとしばらく心から離れて
くれませんでした。
切ないとか哀しいとかだけでない、もっと根源的なところに
訴えてくる句なのです。それがなんだったのかわからないままに、
とても惹きつけられていました。
今回、久保田紺さんの書かれた文章「ここからの景色」で、
それがはっきりわかった気がしました。
私は、弱虫で気が小さいので、どうしようもできない状況で
あるひとのことの考えると苦しくなって、どこかで
避けているようなところがあります。
でも、今回、久保田紺さんの文章と川柳を読むことによって、
そういった自分を戒めることができた気がしています。
「ここからの景色」の文章に引かれてある川柳を、
いくつか紹介させてください。


読みかけの私にしおり挟まれる

生きている約束をする予約票

カーテンの隙間一直線の空

さっきまで私だった髪拾う

私を母でいさせよ春の雨

先生にもらう見え過ぎないあかり

明日も今日でありますようにおつきさま

ハンカチをぎゅっと掴んで聞く話

あれっきり泣かぬ娘とたぬき蕎麦

空ばかり見ている土に埋めたのに


久保田紺さんは、末期の肺がんでいらっしゃる現在の
立ち位置から、まっすぐにご自分を見つめ、今を見つめ、
その先を見つめて、本当に真剣に川柳を書かれて
いらっしゃるのだということがじんじんと伝わってくるのです。
編集人のちえみさんが、後ろのページに
「久保田紺さんも同人の逸星さんも強い。おふたりとも体の水の
最後の一滴まで川柳を生もうとしておられる」と
書かれていらっしゃいますが、私も本当に本当に
そう思います。
ここまで書いて、また、胸がいっぱいになりました。


「杜人」の同人作品から、好きな句を紹介させてください。


「来年七月終了します」紙芝居   大友逸星

右に鶴 左に亀を置きましょう   鈴木逸志

困るのよ青青青とはびこって    広瀬ちえみ

ゴリ押しに押されるばかり楕円形  鈴木節子

一週間前の話がどんぶりに    鈴木せつ子

冬型の気圧配置をおし返す     大和田八千代

わたくしの背中を知っている他人  山河舞句

手錠するように差し出す蛇口まで  佐藤みさ子

南極はさわやかなのかロッテガム  浮 千草

さるすべりアチャコエンタツ金語楼  都築裕孝

魂をすっぽり抜かれ破芭蕉     宮本めぐみ

紅葉狩夏の鮮度を重ねつつ     添田星人

どの島もひとすじ縄でいかぬ島   本村靖弘

箪笥軋んででこぼこする喪明け   加藤久



今日の画像は、ちょっと一休みの冬の空。


こちらは雀の足跡。チョンチョンが可愛いの。


そして、凍った池の上に降った雪


そうそう今号の「杜人」に、お正月にちなんだエッセイが
載っていて、「おかじょうき」の守田啓子さんと角田古錘さんが、
絶妙な文章を書かれています。


啓子さんの「卵味噌」にあやかって、この画像は「干し菜汁」。
こういう寒い日にはこういうのに限ります。
大根の葉っぱの干したもの、凍み豆腐、フノリが入っています。
「人生の一椀」を真似て、捨てられずにいた
ぼろぼろのお椀によそってみました。


今日の句、「あさひな」の忘年句会での五分吟から。
玉さんのは「恋」の題で。
私のは「終わりは始まり」の題で。


恋というとってもいやらしいボタン   玉

空っぽのグラス注がれるのを待って   かなえ